海も穏やかな、日曜日の午前10時。宅急便の営業所へ車を走らせ荷物を届け終えたその帰り道。ふと前方から、ぽってり小太りのおじさんが歩いてくるのがみえた。そのおじさん、何やらにこにこと穏やかな笑み浮かべて、てくてく歩いている。なんだかその笑みに、私はしみじみとしてしまった。で、なんだかとっても『それでいいんじゃないの?』って気持ちになった。 そのおじさんが、なぜ楽しそうに笑っていたのか、実際のところは分からない。もともとの顔立ちかも知れないし(それって素敵)、そういう習性なのかもしれない。朝ごはんのお米が美味しかったからご機嫌だったのかも?しれないし、『天気がいいなあ。』って思ってたのかもしれない。散歩の途中だったのであれば、春の花見上げて『春だねえ…。』みたいな。いやいや、そうじゃなくて、逆に、めちゃくちゃ嫌なことがあって怒りを押し殺し、無理やり口角上げて耐えてたのかもしれないし、エロいこと考えてニヤついてただけかもしれない(おじさん、ごめんなさい)。 おじさんの、菩薩のような微笑みの真相は永遠に闇の中なんだけど、そのおじさんをみて、私は凄く羨ましくなった。つまり、私も人目を気にし過ぎないで、にこにこ笑っていたい。おじさんみたいに、と。 おじさん、あなたは師匠です(今日から暫くだけど)。私はどうも人目を気にし過ぎます。妙に自意識過剰なところがあって、それが結構足かせです。おじさんみたいに笑いたい時に笑う。そんな感じで道を歩きます。 おじさんは果たして、善人か悪人か。浮気ばっかりして奥さん泣かせた駄目オヤジかもしれないし(おじさん、本当にごめんなさい。)。これもまた、真相は永遠に闇の中なんだけど。 でもなあ…あのおじさん、誰かに似てるんだよなあ…。車を走らせながら、ぼうっと考えていると、あるビジュアルが頭に浮かんだ。そうだ。あれだ、あの人だ。「薔薇の名前(映画)」の登場人物の、多分、大きな壺に頭から逆さに突っ込まれて殺されてた修道士だ(おじさん、重ねて本当にごめんなさい。)。てっぷりふくよかな修道士。いや、まて。あの修道士の人相はとっても悪かった。あの柔和なお顔とは程遠いな。多分体のフォルムが似ていたんだな。うん。…。あれ…?あっ、そういえば、高校生の頃によく行ってたドラッグストアのレジにいた若い男の店員さん。あの人はオスカーワイルドにそっくりだったし(めちゃくちゃ似ていました。)、社会人になりたての頃によく通っていた、小さな美術館の脇にある、紅茶の美味しい喫茶店のオーナーさんはサラ・マクラクランにそっくりだった。 本人に伝えたことはないけれど(当たり前か…。)、「今日もオスカーワイルド、そっくりだったわ…。ふふふ…。」店を出た後、ひとりほくそ笑むのが私の習慣だった。…。あれ?そうだった。私、ひとりでほくそ笑んでたわ…。 今日も文章行ったり来たり。まあ、いっか。 🌹オスカー・ワイルド「獄中記」より・・・しかし人生においても芸術においても、その究極の典型となるものは悲哀である。
たくさん たくさん 泣いた日に 夕方散歩へいきました 川辺の花の紫の 一つ一つが可愛くて そのひとひらの花びらが 日々の営みにみえました 昔々のとある日に ご先祖様もひょっとして 人の涙を流しては 人の弱さを感じたの その空のような繋がりに わたしは温もり感じます ああ、この日この時に見た花の 淡い紫の哀しさよ こんなわたしもいつの日か...
昼間、仕事場の2階から見えた木々の葉たちが、さわさわ揺れていて、緑色が綺麗だった。それを独り静かに見ていたら、『ああ、みんな人間、それぞれの場所でそれぞれに頑張ってるんだろうなあ…』って気持ちになった。でもその直後、物凄い孤独感に襲われた。ふと、おじいちゃんのお墓参りに、ずっと行っていない自分を思い出した。...
「laisse-moi.」って繰り返す 今日観た映画の主人公が君のようだねと 去年の秋と変わらぬ笑顔で語る君と二人 ネルケン
金木犀の朝 まどろむ窓辺には 君と僕の すれ違いの分量の水蒸気に 曇る 硝子 僕は 右手の薬指と親指 水に滑らせて 二重螺旋の模様を描いてみた 誰も見ていない朝だから 誰にも気づかれない朝だから ここにある景色は 多分 一筋の陽の光のような脆さ 一雫の水滴のような儚さ 僕は片目を閉じ 硝子の上の透明の渦の その隙間から 君を覗いてみる...
夏の庭の午後は PalestrinaのKyrie 広がる旋律 芝の上に戯れ 青く香る蒸気は 去年君が触れた土と 今年風が揺らした葉から 立ち昇る それは 翡翠色に光る 音の粒子 君は瞳を閉じて 少女のように柔らかな脚で 白い薔薇の隣に 立つ 静かに僕を見つめて 「雨が降るの」ときく 君は僕に鳴いて欲しいの 僕も瞳を閉じてみる 白磁の光が 薄い瞼に透けて...
去年の秋に、ある一本の柿の木が気になっていた。 川奈の海を望む小高い丘の上に建つ恵え鏡院きょういんという古寺から、川奈港へと下る緩やかな坂道の途中にある民家の庭に、その柿の木はひっそりと、人骨のような枝を広げて立っていた。...
2018/04/04
藍色の海
恋色の桜
二つ重なりし春に
二人離れり
2017/11/06
美しいものを 見ろというのですか 汚いものを 見ろというのですか 君は君のその 掌を見たのですか そこには何がありますか 「迷いなき言葉」に窶れた 皺くちゃの皮膚ではないのですか 美しいものを 見ろというのですか 汚いものを 見ろというのですか そんなことより 僕は 僕自身の掌を 見たいのです この掌が 自分の皮膚と 感じたいのです ただ それだけなのです
2017/11/06
奴隷のように生きるなら、 裸になって、泥だらけになって、 無様に死にたいのに…